日本は高等教育にお金を使っていないのか?教育費無償化議論のボトルネックをGDP比で紐解く

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教育無償化の議論が盛んになっています。

私も教育への公的支出を増やすことには賛成ですが、その根拠としてネットで示されるデータには、怪しいものが多いように感じます。

たとえば、高等教育機関とは大学や専門学校のことですが、それを高等学校と取り違えた論も目にしました。高等学校は、後期の中等教育機関です。※末尾で説明

本当に、日本は教育にお金をかけていないのか、もう一度調べてみました。

学校教育費は公財政支出を意味しない

日本は高等教育にお金を使わないと言われますが、前回の最後に示した「学生・生徒1人当たり学校教育費」では、高等教育においてOECD平均が1万3728ドルであるのに対し、日本は1万5957ドルと、平均以上の数値でした。

学生・生徒1人当たり学校教育費 単位:米ドル
就学前教育(3歳以上) 初等教育 中等教育 高等教育以外の中等後教育 高等教育
前期 後期 非大学型 大学型及び上級研究学位プログラム
1 2 3 4 5 6 7 8 9
日本 5,103 7,729 9,256 8,985 9,527 x(5,7) 15,957 10,125 17,511
OECD各国平均 6,670 7,719 9,312 8,854 9,755 4,958 13,728
出典:文部科学省「教育指標の国際比較」(平成25(2013)年版)から抜粋
※ n:計数が0又は無視できる程度の値
※ x():データが同じ行カッコ内の列に示される

国はほんとうに子育てを助けてくれるのか?知っておくべき3つの子育て支援制度

これだけを見ると、日本の高等教育の学校教育費は、決して低くないと感じてしまいます。

ところが、よく調べてみると、ここで言う「学校教育費」とは、「公財政支出」と「私費負担」を足したものであることがわかりました。日本政府が支出したお金だけでなく、各家庭の支出も含んでいるので、けっこう多いように見えるのです。

学校教育費の公財政支出と私費負担との割合

では、公財政支出と私費負担との割合はどの程度になるでしょうか。

日本の高等教育における公財政支出の割合は35.3%で、私費負担は64.7%です。言い換えれば、高等教育の費用の3分の2は家計から出ています。

学校教育費の公私負担区分 教育段階別 (%)
高等教育
1999年 2000年
公財政 私費 公財政 私費
フランス 83.1 16.9 84.4 15.6
ドイツ 84.4 15.6 88.2 11.8
ノルウェー 96.1 3.9 96.3 3.7
オーストラリア 45.4 54.6 49.9 50.1
チリ 23.4 76.6 不明 不明
イタリア 68.6 31.4 77.5 22.5
日本 35.3 64.7 38.5 61.5
韓国 26.1 73.9 23.3 76.7
イギリス 29.6 70.4 67.7 32.3
アメリカ合衆国 38.1 61.9 31.1 68.9
OECD各国平均 70 30 77.1 22.9
※ 表はページの都合上必要な部分のみを抜粋
出典:文部科学省「教育指標の国際比較」(平成25(2013)年版)

これに対して、ヨーロッパの国の多くは、公財政支出が8~9割にのぼります。

逆に、公財政支出の割合が低いのは、チリ(23.4%)、韓国(26.1%)、イギリス(29.6%)、日本(35.3%)、アメリカ(38.1%)です。日本人が高等教育にお金を使わないのではなく、日本政府が使わないのです。

GDP比で見る、日本の公財政教育支出

では、高等教育における、在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比を見てみましょう。対1人当たりGDP比で見るのは、それぞれの国で物価水準も所得水準も異なっているからです。

このように、基準をそろえると、日本はOECD平均よりも、かなりの低水準であることがわかります。イタリアやアメリカやオーストラリアが、同位置で並んでいるのがせめてもの救いでしょうか。

在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比
在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比(2011年)高等教育段階
※ グラフはページの都合上必要な部分のみを抜粋
出典:文部科学省「我が国の教育行財政について」 

ところが、同じグラフを、初等中等教育段階で見てみると、日本の公財政支出はOECDの平均以上になります。小学校、中学校、高校においては、日本政府も、恥ずかしくないだけの金額を支出しています。

在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比
在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比(2011年)初等教育段階
※ グラフはページの都合上必要な部分のみを抜粋
出典:文部科学省「我が国の教育行財政について」 

このようなデータから、高等教育への公財政支出の増加が求められているのですが、これに対しては根強い反論があります。

実は、日本における四年制大学への進学率は52%しかありません。国民のほぼ半数しか進学しない大学へ、これ以上の公財政支出が必要かどうかで、話がまとまらないのです。

就学前教育なら、ほぼ全員が通っている

一方で、日本の就学前教育については、高等教育以上に日本の公財政支出が少ないとのデータが出ています。

在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比
在学者1人当たりの公財政教育支出の対1人当たりGDP比(2011年)就学前教育段階
※ グラフはページの都合上必要な部分のみを抜粋
出典:文部科学省「我が国の教育行財政について」 

小学校入学前の5~6歳児は、ほぼ全員が幼稚園か保育園に通っています。これは義務教育ではありませんが、実質的に義務教育化しているといっていいでしょう。そのため、就学前教育への公財政支出の強化については、反対意見も少なく、議論が進展しています。

ほぼ全員といっても、5歳児で2%、4歳児で4%が、就学前教育を受けていません。親の教育方針もあるのでしょうが、その子たちの小学校での不適応も心配されています。幼児への教育投資は、投資対効果が高いと言われていますから、ぜひ義務教育に近い制度が実現してほしいです。

子育て(教育)経験者こそ声をあげて支えてあげたい

この手の政治的意見は、当事者が主張すると生臭く聞こえるものですが、現在、未就学児を抱えている親も、実現する頃にはとっくに就学前教育とは縁が切れているでしょう。当事者であっても、利害関係はないようなものです。

実際に利益を受けるであろう人たちは、これから子どもを持つ予定の若い世代ですが、彼らは当事者になるまで、なかなかその大変さに気がつけません。だからこそ余計に、経験者である私たちが声をあげるべきだと思うのです。

日本の教育段階分類

就学前教育 幼稚園、保育園など
初等教育 小学校6年間
中等教育 中学校3年間、高等学校3年間
高等教育 大学、短大、専門学校、高等専門学校、大学院など

連載:データから学ぶ、子育ての『経済学』

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