アニメ聖地巡礼がもたらす世界平和。官民のタッグがオタクのグローバル化を加速する

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本連載もいよいよ最終回だ。

ここまで見てきたとおり、日本のオタク市場は海外から常に熱い視線を向けられている。しかしそもそも一部の愛好者たちの密かな楽しみだったカルチャーだ。だからこそ「お宅(オタク)」の名がついた。

今では国や地方自治体も人気に便乗し、経済効果を享受している。

聖地巡礼隆盛の歴史

『涼宮ハルヒの憂鬱』NHK BSプレミアム
現在でも人気の『涼宮ハルヒの憂鬱』(NHK BSプレミアムでの放送中)

聖地巡礼という言葉がある。イスラム教のメッカが世界的に有名だ。日本の伊勢参りや日本の四国八十八ヶ所巡りも聖地巡礼の一種だろう。醍醐味は「旅感」だ。ただ“ありがたい土地”をめぐるだけでなく、当地を観光し、日常のうさを晴らすという効果もある。適度な運動と気分の入れ替えのおかげで、巡礼から帰ったものはおおく健康を手に入れる。だから愛好者も増える。

オタク版聖地巡礼とは

アニメやマンガに登場する舞台や人物にゆかりのある土地を巡って楽しむのがオタク版の聖地巡礼だ。20世紀の終わりころから、実在の場所を舞台としたアニメ作品がちらほら現れ始め、2000年を超えるとその数が急増する。

アニメデータベースとして知られる「アニメ評価データベース さち」の統計を分析すると、2002年ころからアニメ作品そのものの制作本数も増え、引っ張られるように実在する場所を舞台とした作品も数を伸ばしていき、その地を巡る熱心なファンが現れるようになった。

地域再生の産業分野として

国がこの分野に目を付けたのは意外にはやく、2005年には『映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査 (国土交通省・経済産業省・文化庁)』が行われている。

そして2006年、あの『涼宮ハルヒの憂鬱』が登場。舞台となる兵庫県西宮市周辺にファンが押し寄せ、「ハルヒツーリズム」として社会全体が反応し、認知されるようになった。作品を見ればわかるが街の様子が現実の風景をそのままトレースしたと思えるほど正確に描かれている。ファンでなくとも「ちょっと行ってみたいな」と感じるレベルだ。

来日目的はアニメ聖地巡礼

こうした人気は訪日外国人にも飛び火している。アニメの聖地巡礼を目的に来日する観光客も少なくない。各巡礼地には『巡礼ノート』が置かれており、外国人の書き込みも多い。

金沢学院大学経営情報学部の酒井亨准教授は著書『アニメが地方を救う! ? – 聖地巡礼の経済効果を考える – (ワニブックスPLUS新書)』の中で外国人による巡礼ノートの書き込みについてつぎのように語っている。

「筆者が見た印象では、台湾、香港、中国、韓国、タイの順に多く、欧米ではフランス、米国などが見られる。アジア系はそれぞれの国の公用語のほか、日本語で書く例が多く見られる。特に台湾人はほとんどが日本語で書いている。」

大手企業各社のアニメ聖地巡礼客の取り込み

アニメツーリズム協会HP
アニメツーリズム協会HP

こうした聖地巡礼人気を大手企業も見逃さない。訪日旅行を専門に扱う『JTBグローバルマーケティング&トラベル』は2008年8月に名古屋で開催される『世界コスプレサミット2008』→『秋葉原』『ジブリ美術館』『中野ブロードウェイ』といった“聖地”を巡るツアーを発売し人気を博した。

2016年9月に設立された『一般社団法人アニメツーリズム協会』は今年8月に東京幕張で開催されるアニメイベント『C3AFA TOKYO 2017』にて「2018年版 アニメ聖地88か所」を発表する予定だ。現在そこに向けてのネット投票が行われている。

マンガ・アニメと訪日外国人の親和性に着目し続ける前出の『JTBグローバルマーケティング&トラベル』は2014年3月にスマートフォン向けアプリの「Ms.Green」をリリースした。

『旅行MANGA』『異文化体験』『和COOL』『Search japan』など幾つかのコンテンツに分け、文化や観光地の楽しみ方をマンガでわかりやすく解説するものだ。マンガというとっつきやすさと日本らしさが受け、リリースから3ヶ月で10万ダウンロードを達成。その後も記録を伸ばしており、AppStoreのブックカテゴリで1位、無料アプリ総合3位獲得のヒットとなっている。

国の取り組み

もちろん国も黙ってはいない。JNTO(日本政府観光局)は英語版のウエブサイトにて「Japan Anime Map」と題し、『OTAKU CULTURE』や『涼宮ハルヒの憂鬱』『サマーウォーズ』『きら☆すた』などの聖地を英語で紹介している。こうした地図を片手に訪日外国人が聖地巡礼の旅を繰り広げるのだ。

Japan Anime Map
「Japan Anime Map」

前出の酒井亨氏は著書の中で日本のオタク文化の未来についてこう言う。

「アニメが国内はもとよりアジアないし世界中で愛され続けるためには、「平和」である必要がある。─中略─ 日本が平和を撹乱することはないだろうが、アジアには中国や北朝鮮のような独裁国家もあるし、また世界的にはテロ拡散の脅威もある。その点では、まさに平和をいかにして維持拡大していくか、その環境整備こそが、日本政府の責務だ考える。」

オタクは(たぶん)平和を愛している。オタク文化を通して平和を世界に広げていくのも日本人の大切な役割なのかもしれない。その意味においては、オタク市場のグローバル化は世界平和に一役買うことができるといえば言い過ぎだろうか。しかし、取材を通して目にした多くの外国人オタクたちの幸せそうな笑顔は強く印象に残っている。こうした笑顔が平和につづく小さな一歩であることに疑いはない。

連載:グローバル化する日本のオタク市場

  1. 中野ブロードウェイに集う外人バイヤーたちの怪しい毎日。海外から狙われる日本のオタク市場
  2. 中野ブロードウェイの闇の奥。“セドラー”と“転売ヤー”に狙われるジャパニーズカルチャー
  3. 世界中から狙われるアイドル市場!オタクのグローバル化で拡大する市場規模
  4. テーマパーク化する街。訪日外国人が進めるオタク文化の東京占領
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