義務教育は本当に無償か?見落としがちな保護者の支出は何がある?

photo by Yoshihito KOBA

読了目安[ 6 分 ]

教育費を無償化しようという議論が、政界で盛んになっています。

現在、義務教育である公立の小中学校は無償ですが、その前後の幼稚園・保育園と高等学校は、ほとんどの人が通うにもかかわらず有償で、子育て世代の負担になっているからです。

また、経済的に困窮している家庭が、子どもに十分な教育を受けさせることができず、教育格差が経済格差につながる貧困の再生産も起きています。

……という話は他のメディアでいくらでも読めるでしょうから、今回は、前提となっている無償の義務教育の内実について考えてみましょう。

1.学校給食費 年間約40,000円

教育無償化とは、義務教育の無償提供が格差の是正につながっていることから、就学前教育や高等教育も無償化して、教育を受けられる人間を増やそうとの試みのこと。

ところで「義務教育は無償」と書きましたが、子どもを小中学校に通わせている保護者ならよく知っているように、まったくの「無料」ではありません。毎月一定の金額が、保護者のお財布(通帳)から学校へと納められています。

その1つが、学校給食費です。その金額は、自治体によって多少の違いがありますが、たとえば横浜市では月4,000円、夏休みなど長期休暇を除く合計11カ月で年間44,000円を、保護者から徴収しています。給食実施は年190回なので、1食あたり232円になります。

意外と安いのは、もちろん行政の補助があるからです。学校給食法第十一条は、給食経費のみを保護者負担と定めています。横浜市の場合、保護者が払うのは約87億円にのぼる食材費だけで、その他の人件費、光熱費、備品・設備費の約131億円は、市が負担しています。

横浜市教育委員会 学校給食費について 平成28年度在校生用のご案内チラシ
平成28年度在校生用のご案内チラシ > 5 給食に必要な経費

この学校給食費、しばしば保護者の未納が問題になります。文部科学省の抽出調査では、全国の公立小中学校で、人数で1%、金額で0.6%の未納が確認されました。

給食費未納と言えば、すぐに保護者のモラルの低下と結びつけられますが、未納者の大半は、経済的に困窮しているのですから、子育て世代を叩く材料には使わないでいただきたいと思います。

平成22年度の学校給食費の徴収状況より抜粋
区分 小学校(割合) 中学校(割合) 計(割合)
学校給食を提供していた児童生徒数 143,959 58,784 202,743
学校給食費が未納の児童生徒数 1,318(0.9%) 800(1.4%) 2,118(1.0%)

2.PTA会費 年間2,000円〜

PTA会費も、給食費と同じく、毎月保護者が納めねばならないお金です。

PTAとは、Parent Teacher Association(親と教師の会)の略で、学校だけに子どもも任せるのではなく、保護者も協力しようとの目的で設置されているものです。保護者同士の横のつながりを作る目的もあります。

このPTAは、学校とは独立した組織ですから、財源を独自に集めねばなりません。そのため会員になっている保護者と教師から会費を集めます。その金額は年間2,000~5,000円のことが多いです。

2015年4月インターネットを用い各地のPTA情報を収集:計34校
学校の種類 PTA年会費 件数
公立小学校 1200 1
公立小学校 1800 1
公立中学校 2000 1
公立小学校 2100 1
公立小学校 2400 5
公立中学校 2400 1
公立小学校 2640 1
公立中学校 2640 1
公立小学校 3000 1
公立高等学校 3200 1
公立小学校 3600 7
公立中学校 3600 1
公立小学校 3840 1
公立小学校 4000 1
公立小学校 4400 1
公立小学校 4800 5
私立幼稚園 6000 1
公立小学校 6000 1
公立小学校 12000 1
私立中高一貫校 24000 1

PTA会費は、正確に言えば学校ではなくPTAが徴収するお金ですが、収集代行を学校に依頼しているPTAも多く、また、入学と同時に暗黙の了解でPTAに入会させられるので、実質的には義務教育に付随する納付金です。東京都教育委員会も、「学校教育において保護者が負担する経費」として、調査報告書に計上しています。

PTA会費は、子どもたちに渡す卒業記念品などに使われることもありますが、基本的には、給食費のように直接還元されず、ほとんどがPTAの活動運営のために使われます。東京都の報告書によれば、小学校PTAの会費支出のうち受益者負担額(直接還元される額)は約2割で、残りの8割は活動運営費です。PTA会費の使われ方には見直しの余地があると思います。

表1 保護者が負担した学校教育費(平成27会計年度)より内訳を抜粋
PTA会計(単位:千円)
受益者負担額 499,344
PTA・学校後援会等活動運営費 1,959,768

3.その他、教材・学校指定用品等の支出

そのほか、漢字ドリルや三角定規のように、学校がまとめて購入して配布する学習教材があります。制服や体操服や上履きのように、個別購入の学校指定用品もあります。ランドセルや筆箱や鉛筆のように、指定用品ではないものの、大枠を定められた必要品があります。学校での怪我に対する保険の掛金もあります。さらに、遠足や修学旅行のようなイベントごとに実費がかかります。

これらを合わせた、保護者が負担する学校教育費は、東京都の場合、小学校で一人あたり年間5万5516円(うち学校給食費3万9518円)、中学校で年間7万5699円(うち学校給食費3万6722円)となっています。

これらは実質的に、義務教育を受けさせるための費用です。

学校と役所の名誉のために付け加えると、経済的に困窮している家庭には、要申請で所得審査有の就学援助制度があって、費用のほとんどをまかなうことができます。

a.補助の概要
市町村の行う援助のうち,要保護者への援助に対して,国は,義務教育の円滑な実施に資することを目的として,「就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律」「学校給食法」「学校保健安全法」等に基づいて必要な援助を行っています。【要保護児童生徒援助費補助金】

(中略)

b.補助対象品目
学用品費/体育実技用具費/新入学児童生徒学用品費等/通学用品費/通学費/修学旅行費/校外活動費/医療費/学校給食費/クラブ活動費/生徒会費/PTA会費

就学援助制度について(就学援助ポータルサイト):文部科学省

ですが、給食費未納に見られるように、就学援助金があっても、経済的に困窮していると、そのお金を別の支払いにあててしまうこともあります。

日本国憲法第二十六条には「義務教育は、これを無償とする。」とありますが、現実問題として、無償とは言いきれないでしょう。子どもへの食育が注目される現在、財源の問題などもあるでしょうが、制度設計としてたとえば給食費の公費負担という考え方もありだと思います。

同じカテゴリの記事

コメントを残す

  • コメント欄には個人情報を入力しないようにしてください。

  • 入力いただいたメールアドレスは公開されませんがサーバーに保存されます。
  • 入力いただいた情報の他に、IPアドレスを取得させていただきます。取得した IPアドレス はスパム・荒らしコメント対処ために利用され、公開することはありません。