中野ブロードウェイの闇の奥。“セドラー”と“転売ヤー”に狙われるジャパニーズカルチャー

読了目安[ 5 分 ]

今や観光大国となった日本。海外からの旅行客は教科書通りの日本文化を満喫する一方で、我々とはちょっと違った角度からジャパニーズカルチャーを見る。

彼らの興味関心を知ることで新たな日本が見えてくることもあり、それはそれで面白い。ただ、なかには屈折した角度からジャパニーズカルチャー眺める者もいる。屈折の視線を逆から追うことで、闇の奥が見えてくる。

中野ブロードウェイが標的に

「Takashi Murakami✕NEXT5」の発売告知
「Takashi Murakami✕NEXT5」の発売告知 カイカイキキ公式HPより

2016年7月上旬。中野ブロードウェイの3階に長蛇の行列ができた。彼らの目当ては4合瓶で3,500円(税別)の高級日本酒だ。オタクビルとして知られる場所にはおよそ似つかわしくない商品なのだが……。

現場に居合わせたビル関係者の話。

「商品の発売前から話題で、当日は朝から列ができていました。階段の下まで続く長さでした。でも、列の中にホームレスっぽい人たちがたくさん混ざっていたんです。とても並んでまで高級酒を買うような雰囲気の人たちじゃなかった。他にもアジア系の外国人らしい姿もありました」

関係者の言う「ホームレスっぽい人たち」はいわゆる“並び屋”だ。販売数に制限のある商品を大量購入したい闇業者が雇う。

販売された日本酒は秋田県に拠点を置く蔵元の若手跡取り5人が集まって作ったもの。ブランド戦略とパッケージデザインを担当したのが村上隆率いる『kaikaikiki』だ。日本酒「Takashi Murakami×NEXT5」は酒蔵と現代美術家のコラボ商品として話題となった。

そこに転売を目的とした闇業者が目をつけた。

「そもそも『NEXT5』は5000本限定製造の商品で、販売当日はひとり1本までの制限がありました。ところが金儲けだけが目的の転売業者は人を雇って買わせて大量に入手したわけです」(前出関係者)

“並び屋”を束ねる業者の男性は、その場で商品を受け取り、両手に数本ずつ下げてどこかに持ち去ったという。

「数十分後にはオークションサイトに商品がアップされました。もちろん、人を雇って大量購入した人物が売り主なのかどうか、それは確認できませんが、まぁ、間違いないですよね(笑)」(前出関係者)

大手オークションサイトでの転売状況
その日のうちに大手オークションサイトに出品されたコラボ商品

似て非なる“セドラー”と“転売ヤー”

中野ブロードウェイ城
去年50周年を迎えた中野ブロードウェイ。3階フロアに記念のオブジェが鎮座する

せどりとは?

中野ブロードウェイを舞台に繰り広げられる怪しい動き。その背後には「セドリ」がある。本稿では第1回目から「セドリ」という言葉を使ってきた。ここで改めて「セドリ」について説明しておこう。「競どり」「背どり」などの漢字があてられるが語源はいまひとつ判然としない。古書業界で使われることが多い用語だ。

古書業者は商品の入手を競りで行うのが一般的だ。箱に詰められた書籍を箱ごと競り落とす。本当に価値のある本は1冊だけだったとしても箱ごとの購入が基本だ。中にどれだけ多くの掘り出しものが眠っているかを見極めるのが腕の見せどころだ。箱の中の価値ある商品だけを取り出すから「競り取り」、転じて「セドリ」。

せどりと転売の違い

個人でセドリを行い、小遣い稼ぎをしている男性に話を聞いた。

「ブックオフなどの古本屋に行って商品を仕入れ、Amazonとかヤフオクで売ります。数年前までは本でもやっていました。でも最近はマンガや小説の値付けが厳しくなっているので儲からなくなった。だけどゲームソフトなんかは今でもけっこう稼げます」

とは言え彼らは素人だ。巨大な棚から価値のある商品をピンポイントで探し出すことは難しい。

「以前は“ビーム”と呼ばれる手のひらサイズのバーコード読み取り機を使って商品情報をスマートフォンに取り込み、そこから検索をかけて探し出していたけど、最近では店側も警戒してすぐに注意されるようになりました。だから今は高値で売れる商品を頭に入れて、それを探すようにしています」(前出セドラー氏)

彼らは自分たちのことを“セドラー”と呼び、転売だけを目的とした“転売ヤー”と同一視されることを嫌う。

「一応僕らはマンガとかゲームソフトに関して一定の愛があるんですよ(笑)。作品として好きだから買います。自分でも楽しんでから売ったりするんですね。ただの金儲けとはそこがちょっと違う。中野ブロードウェイの事案もそうですけど、日本酒と村上作品のどちらにも全く興味のない人が金儲けのために転売するのは、やっぱりかっこ悪いですからね」(前出セドラー氏)

中野から広がるインバウンドエリア

中野ブロードウェイ内の高級時計店
中野ブロードウェイ内にある高級時計店にも外国人の姿が

中野ブロードウェイには各国から観光客が集まる。とくに大きなお金が落ちるのは高級時計店だ。ある店の店主は「先日香港からいらしたお客さんは1本400万円のロレックスを6本まとめてお求めになりました。その場で現金にてお支払いでしたよ」と頬を緩ませた。

「為替が1ドル80円のころはきつかったですが、今は110円あたりで落ち着いています。おかげで売り上げは伸びていますね」(同店主氏)

中野ブロードウェイの作り出した消費の波は近隣にも影響を及ぼしている。

中野在住の雑誌ライターは次のように語る。

「新宿から西に伸びるJR中央線は以前から観光客の人気スポットです。ブロードウェイでお金を使う外国人はそのまま電車に乗って吉祥寺や国分寺まで遊びに行きます。そうした流れを捕まえようと、吉祥寺のひとつ手前の西荻窪に半田晴久氏が時計店を出店しました」

宗教家、教育家、ビジネスマン、作家。さまざまな顔を持つ業界の怪人・半田晴久。
彼が5月27日にJR西荻窪駅から歩いて数分の場所に「HANDA Watch World」をオープンしたのだ。

「取り扱う商品はロンジンやタイメックス、スウォッチなど、価格帯はさほど高額でないのですが、中野ブロードウェイが作った中央線の外国人人気を当て込んだ出店だと思われます」(前出雑誌ライター)

オタクビル『中野ブロードウェイ』の魅力はまだまだ奥が深そうだ。

連載:グローバル化する日本のオタク市場

  1. 中野ブロードウェイに集う外人バイヤーたちの怪しい毎日。海外から狙われる日本のオタク市場
  2. 中野ブロードウェイの闇の奥。“セドラー”と“転売ヤー”に狙われるジャパニーズカルチャー
  3. 世界中から狙われるアイドル市場!オタクのグローバル化で拡大する市場規模
  4. テーマパーク化する街。訪日外国人が進めるオタク文化の東京占領
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