学習塾で集団感染、責任は誰?〜弁護士に聞く損害賠償の可能性〜

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 千葉県船橋市で発生した、結核の集団感染。少なくとも、発端となる男性患者Aの勤務先では56人が結核に感染したことが確認されている。秋以降ともなればインフルエンザの流行も予想され、ネット上では「どこの塾か」「感染拡大は防げなかったのか」「受験生がかわいそう」など、子どもが感染症にかかったらと不安な保護者も多い。アディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に、学習塾で感染症にかかった場合の責任所在について聞いた。

◆子どもが学習塾で集団感染、責任は誰にあるのか? 損害賠償責任の可能性も

 学習塾で集団感染が生じ、その感染源が塾講師だった場合の法的責任がどうなるかは、とても難しい問題です。

 法的には、その塾講師については、「自身が結核であることを知りながら、菌を周囲にばらまいて、結核菌を感染させた」ということであれば、故意に他人の身体の生理的機能に支障を生じさせたものとして、傷害罪が成立する可能性も皆無ではありません。少なからず、自身が結核と知っていた(知ることができた)のにそれをあえて告げずに菌をばらまき、結核菌を感染させたということであれば、民法709条の不法行為として、損害賠償責任を負うことになります。

 不法行為が成立するためには、「故意(わざと)または過失(うっかり)」という条件が必要なので、今回の結核感染につき、その塾講師に「故意・過失があった」と認められるかがひとつのポイントとなります。今回も、塾講師は身体の異常には気づいていたようなので、感染させてしまうような病気であったと気づけたか否かという点がポイントになってきます(編集部注:8月29日に船橋市が発表した資料によると、塾講師である患者Aは平成24年から平成27年にかけて肺の異常を指摘されていたが、医療機関を受診していない。また、平成28年6月には肺炎と診断され、抗生剤を内服したが症状が改善しなかったため、別の医療機関を受診し、肺結核と診断された経緯がある)。

 また、塾講師の結核菌によって、集団感染が起こったという因果関係も必要です。一般には、「結核発症の原因が何だったのか」その感染ルートを立証すること自体難しいとは言われています。なので、「故意・過失」に加え、この「因果関係」も認められる場合に限り、塾講師に賠償責任が生じることになります。

◆塾自体に責任を問える可能性も

 塾自体に責任を問えるとすれば、塾講師を雇用していた使用者としての「使用者責任」がまず考えられます。従業員(雇用されている側)が、職務の執行に関し、他人に損害を与えた場合には、使用者側(雇用している側)も賠償責任を負うことになっています(民法715条)。塾の講義の際に、講師が故意・過失により結核菌を感染させたという評価になれば、塾自体も原則として賠償責任を負うことになります。

 塾が責任を負うケースとしてはもうひとつ、「入塾契約に付随する安全配慮義務違反」を理由に賠償責任を問われる可能性があります。

 塾と生徒(親)との間には、「塾は生徒に対して教育サービスを行い」、「これに対して生徒側は受講料を支払う」といういわゆる入塾契約が成立しています。この入塾契約に付随して、塾側には、教育サービスを提供する前提として、「塾において、生徒の身体・安全等に支障が生じないよう配慮する義務(安全配慮義務)」があると考えられています。

 今回も、(1)結核の感染等、生徒の身体に支障が生じることが予想され、(2)これを回避できる方策があったにもかかわらず、(3)これを避けるための具体的な措置を講じることなく放置し回避義務を怠った、ということであれば、塾側の安全配慮義務を理由に、賠償責任を問うことができることになります。

◆感染源が明らかな場合、発病者に治療費や入院費を請求できるか

 先に述べたように、感染源である人物に不法行為が成立する場合や塾側に使用者責任・安全配慮義務違反が成立する場合、これらの者に対し、損害賠償請求をすることができます。

 賠償の内容は、結核を感染されたことによって生じた損害ということになり、具体的には、入院費、治療費、慰謝料、会社を休んだ分の休業損害等となります。基本的には、感染された側に過失がない限り、これら全額を相手に請求することができます。なお、慰謝料は通常入院2カ月で約100万円が法的な考え方となっています。

 賠償されるべき損害がどこまでの範囲・金額であるかは、なかなか難しい問題ですので、具体的な額等については専門家である弁護士にご相談いただくのがベストでしょう。

篠田恵里香(弁護士)
 東京弁護士会所属。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。夫婦カウンセラー(JADP認定)資格保有。独自に考案した勉強法をまとめた「ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法」(あさ出版)の執筆ほか、「Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ」(テレビ朝日)などメディア出演も多い。

協力:アディーレ法律事務所

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  • 船橋市 結核集団感染事例の発生について 更新日:平成28(2016)年8月30日(火曜日)
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9500万円の賠償金実例も…義務化が進む「自転車保険」FP推奨の加入法

先日近くの歩道で、歩行者と自転車との、出会い頭による事故を見かけました。大きな事故ではなかったのですが、歩行者がハッと立ち止まり、自転車走行者も慌てて自転車からおりる…といった光景は、珍しいものではないかもしれません。

■賠償金9500万円の判決実例も!自転車保険の必要性

警視庁が発表したデータによれば、2015年中の自転車事故件数は全国で101,219件に上ります。

また2013年に起きた、少年と60代女性との自転車事故では、女性は後遺障害を負い、神戸地方裁判所が約9,500万円という高額の賠償金支払いを命じる判決を言い渡しています。被害者はもとより、加害者やその家族にとっても痛ましい事故となったのは、言うまでもありません。

バイクや原動付自転車とは違い、ライセンスの必要ない一般の自転車は、誰もが気軽に乗れる分、乗っている人の走行モラルや規則の順守に大きな差を生みやすいのが実態です。

そんな中、全国に先駆けて兵庫県にて、自転車保険の義務化を定める条例が2015年10月より施行されました。続いて大阪府でも義務化の条例が施行され、そのような動きは全国に広まりつつあります。

罰則規定はないものの、被害者救済と加害者になりかねない事を考慮して、加入はしておきたいですね。

■自転車保険の月額保険料・補償は?

では自転車保険とは、どのような内容なのでしょうか。

まず保険料についてですが、各損保会社の年間保険料は3,000円~1万円程度と、プランによって差があります。つまり、月250円〜830円程度で加入できます。

基本的な補償は、何より被害者への賠償金。額は上限1億円が主流で、中には3億円まで補償してくれる会社もあります。次に示談サービス。相手方との交渉を素人がするのは難しい事ですから、つけておきたいサービスです。

他には搭乗者のケガや死亡に対する補償です。入院や通院、手術についての補償になります。

■個人賠償責任特約と傷害保険には自転車保険の補償がある…⁉︎

実は一般の人には知られていない事なのですが、上記の補償は自転車保険に加入していなくてもすでに補償されているケースが多いのです。つまり“加入しているとは知らずに、加入している”状態です。そのからくりは、「個人賠償責任保険」と「傷害保険」にあります。

⚫個人賠償責任保険
個人賠償責任(賠責)は自動車保険や自宅の火災保険に特約として付加されていることが多いです。これは自転車保険でも同じことですが、被保険者ひとりの補償ではなく、同居している家族も補償対象になります。

⚫️傷害保険
傷害保険は事故や災害、感染症での入院、通院、手術や死亡に対して補償されるもので、損害保険会社が取り扱う保険のなかで、唯一「ヒト」を補償対象にしている保険になります。生命保険とは違い、年齢や性別で保険料が決まるのではなく、危険なスポーツをしているか、職業は何か、もしくは75歳以上の高齢者か否かで、保険料が決まります。

実はこの2つに加入していれば、すでに自転車保険に入っているのと同じこと。2つ以上の保険に加入しているからといって、補償額がその分増えるということはありませんので、ムダな2重掛けは避けたいものです。ただし、契約の補償額は十分に確認をしてください。賠責額は、1億円以上が好ましいでしょう。

楽しいサイクリングや、安心な日常での使用をするために、保険の確認と、なによりルールを守った走行をお忘れなく。

あぁ、よそ様にご迷惑を…助けて!個人賠償責任保険

普段生活していると、人のものを壊してしまったとか、ケガさせてしまったということが往々にして起こります。その時の損害賠償を補償してくれるのが個人賠償責任保険です。

今回は、個人賠償責任保険について、その内容、注意点などをお話しします。

大抵の場合、火災保険や自動車保険などの特約として付保されていることが多いので、「火災」あるいは「自動車」など本体の保険に関係ある場合だけと思われている方もいるかもしれませんが、個人賠償責任保険は、日常生活で誤って他人に損害を与えた場合、その損害賠償金や弁護士費用などの負担を補償してくれます。

例えば、

*マンションの階段で遊んでいた子供が誤って瓶を落とし、階下の玄関のガラスを破損させた(55.5万円の保険金支払い)
*物干小屋の屋根が腐食により強風で飛んで、他人に損害を与えた(78.6万円の保険金支払い)
*マンションで水漏れが起こり階下に損害を与えた(19.8万円の保険金支払い)
*子供が友人宅のテレビにぶつかって壊した(21万円の保険金支払い)
*子供が自転車で追突しけがを負わせた(108.9万円の保険金支払い)

といった事例がありますが、どの保険であっても、個人賠償責任保険特約を付保していれば対象となります。

対人になると高額になるケースが多いことと、それに対して保険料はそれほど高くないため、個人賠償責任保険には必ず入っておきましょう。

ここで注意しなければいけないことは、

*特約で付保されている場合は、本体の保険を解約した場合、併せて解約になってしまう
*補償対象外もある

ということです。

補償対象外の例としては、

*職務遂行上や自動車事故(各種賠償責任保険・自動車保険など専用の保険があるため)
*他人から借りて使用していた場合(借りている人の管理下にあるため)
*同居の家族

などが挙げられます。

よそ様にご迷惑をおかけしたとき、すぐに役に立つのが個人賠償責任保険です。お手元の保険証券を確認して、個人賠償責任保険に入っているかどうか、保険金額はいくらになっているのか、すぐに確認してください。

いざというとき慌てない!「印鑑登録証明書の取り方」基本のき

不動産登記や遺産相続など、ここぞという人生の大事な場面において必要とされる書類。それは「印鑑登録証明書」。

日常でお目にかかることが非常に少ない書類なので、いざというときに「一体何をどうしたらいいの?」となってしまう方も多いのではないでしょうか。そんな急な場面でも慌てないよう、「印鑑登録証明書」の基本をあらかじめおさえておきましょう。

■必要なときに初めてわかる「印鑑登録」「証明書」の意義

先日、筆者の母が亡くなった折のことです。両親名義にしてあった我が家を父のみの名義に変更するため、「相続権がある子の同意証明として、印鑑登録証明書を寄こすように」と行政書士の方からお達しがありました。

思い返せば大昔、何かの用事で印鑑登録を済ませていたはずなのですが、「そういえばあの登録証はどうなったんだっけ?」という状態でした。

このような相続関係の手続きで必要とされる「印鑑登録証明書」を発行するには、下記3つのステップを踏む必要があります。

(1)実印を作る(女性は小さいサイズでよいという慣習あり)
(2)住まいのある役所で実印を登録をし「印鑑登録証」を作成する
(3)「印鑑登録証明書」を発行する

では、筆者が実際に証明書を発行するまでに体験したプロセスをお話しします。

■(1)実印を作る

以前登録した印鑑は苗字のみで、三文判といわれる日常使いの普通サイズのものでした。
しかし実印とは、先にも書いたとおり人生の重要な局面で使用される信頼の証のようなものです。

・名前
偽造や重複を防ぐという意味でも、「苗字と名前のフルネーム」「普段使いより大きいサイズ」「複雑な書体」等々、簡単に真似することが難しいものを作っておいた方が無難です。
近所のはんこ屋さんを訪ねたところ、フルネームで作るのが一般的で、サイズは三文判サイズでも規定の範疇である、といったことを教えてくれました。

・印鑑の大きさ
横浜市役所公式サイトの印鑑登録証明書の案内ページによれば、登録できる印鑑のサイズは1辺8mm以上、25mm以下の正方形の中に、印影が収まるもの、とのこと。ゴム印、シャチハタ等の変形しやすいものは、印影も変化してしまうので不可。また、住民票に登録された氏名と異なる文字(漢字をひらがなにしたり、など)を使用することはできません。

・値段
一般的に女性は男性よりも小さいサイズでよいという慣習があるようですが、大きいサイズを選んではいけないということではないそうです。ただし、大きいものや象牙などの長持ちする立派な素材を選ぶと、その分値段もはね上がるので、予算と相談しましょう。ちなみに筆者が作成した印鑑は直径13mm程度で、値段は2,500円ほどでした。

・納期
納期に関してですが、筆者が依頼したお店は直営店のようで、注文翌日午後には出来上がっていましたが、同時期に筆者の兄弟が依頼したお店は代理店だったらしく、一週間後の出来上がりとなっていました。急ぎの場合は、オーダーする前に必ず納期を確認しておきましょう。

〔残り2つのステップは次ページへ〕

自転車事故で多額の損害賠償を求められたら、どうする?

子どもからお年寄りまで、幅広い年齢の人が手軽に乗ることができる自転車ですが、万一事故を起こすと、大きなケガに繋ながったり、他人を傷つける凶器にもなります。自転車事故を起こして、5,000万円~1億円近い損賠賠償を求められた判例もあるほどです。

では、このような万一の事態にどのように備えるとよいのでしょうか?
ひとつは、「自転車保険」に加入する方法です。自転車保険には、主に以下のような補償がセットされます。

1. 入院の補償:1日あたり4,000~6,000円
2. 通院の補償:1日あたり1,000~2,000円(補償がないタイプもあり)
3. 死亡・後遺障害補償:300~500万円
4. 個人賠償責任補償:最大5,000万円~1億円  など
  1~3は自転車に乗っている時だけでなく、歩行中に自転車や車にぶつかった時も補償されます。

「個人賠償責任補償」は日常的な生活の中で、偶然他人に損害を与えた場合に支払うべき賠償金を補償してくれるもの。「日常生活賠償補償」と呼ばれることもあります。他人にケガを負わせた時だけでなく、他人のモノを壊した場合も補償されます。自分のケガや死亡の補償は、他の医療保険や生命保険でもカバーできますが、自転車保険の最大の特徴は、個人賠償責任補償がある点。そのために加入すると言っても過言ではありません。さらに、個人賠償責任保険では、加入する本人の自転車事故以外に、「子どもがデパートでうっかり高級な花瓶を割ってしまった」など、家族が引き起こす日常生活のさまざまな事故も補償してくれる優れものです。人間だけでなく、ペットも対象で、「愛犬が他人に噛みついてケガを負わせた」といった場合も支払われます。その上、保険料は毎月500円程度とリーズナブルですから、入っておくと安心です。自転車保険はインターネットからも簡単に申し込めます。

個人賠償責任補償は、自動車保険や火災保険、またはクレジットカードなどに付帯する保険にオプションで付けられるケースがあります。もしかすると既に付いているかもしれませんので、加入中の保険の内容を確認してみてください。「保険証券」や「契約内容確認書」と呼ばれる書類で調べることができますが、わからなければ保険会社に問い合わせてみましょう。付いていない場合も途中から付けられるケースもあります。月100円程度の保険料を追加するだけで、家族全員が補償されます。入院や死亡の補償がないぶん、自転車保険に加入するより保険料は安くなります。個人賠償責任保険は2つ以上加入していても、ダブルでもらえるわけではありませんので、一家に1つあれば充分です。

2015.5.27更新

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